謙譲語とは、自分または自分の側にあると判断されるものの主体を下げた表現をし、相手側を立てて敬意を表す言葉。「自分や自分側を『へりくだる』表現」とも定義されますが、「下げる」や「へりくだる」という言葉自体、今ひとつピンときませんよね。
実はこの謙譲語、使いこなそうと調べると、よりややこしい壁にぶちあたります。それは、「謙譲語」と呼ばれるものが2種類に分類されている、ということ!余計にわかりづらくなりそうですよね!
けれども、分け方の意味合いを理解すれば、さほど難しくはありませんし、噛み砕けばとても簡単。
そこで今回は、ビジネスシーンで間違えのない敬語をスムーズに使いこなせるために、「2種類の謙譲語」の基礎知識と、間違えやすくて恥ずかしい勘違いをお伝えします。
謙譲語を正しく使う☆
ビジネスシーンで役立つ言葉
ひとつめの謙譲語とは
ふと聞くと「え?なになに?」とハテナマークがたくさん付きそうな、「2種類の謙譲語」ですが、実はとても簡単なことですので、ここで軽く解説します。
【 ひとつめの謙譲語(謙譲語Ⅰ)とは 】
★ こちらが従来の謙譲語の考え方そのまま。自分や自分側(会社や身内など)を下に表現して、相手を高くする敬語の表現です。
具体的な言葉は次の項目でお伝えしますが、例えば「行く」の謙譲語「伺う」も、このひとつめの謙譲語。「部長のところに行きたいのですが」を「部長のところに伺いたいのですが」と言い換えることで、「部長」を立てる表現になる方法です。
【 自分の身内にも使うのが、謙譲語 】
★ 「私と同じ部署の者が、部長のところに伺いまして」など、自分の会社の人々や、家族など、いわゆる身内にも、外部の人々と話す時には謙譲語を用いる点に注意!
また「鈴木君が部長のところに伺ったそうですね」も一瞬「あれ?」と思いますよね。そうです。第三者でもそれぞれの登場人物が問題なければ、この表現を使うことはあります。例えばこの場合、鈴木君が下がっても問題のない、師弟や部下などの場合です。
それでは、ふたつめの謙譲語、とは
次にふたつめの謙譲語の分類ですが、これは専門的には「丁重語」とも言われます。この名前でピンとくる方々はいるかもしれません。
【 ふたつめの謙譲語(謙譲語Ⅱ~丁重語~)とは 】
★ 自分を下げて相手を上げるのではなく、自分の行為そのものを丁重に表現している謙譲語を差しています。
・ こちらも具体的な言葉に対しては後の項目で述べますが、例えば「参る(←行く・来る)」や「申す(←言う)」などの特定の言葉があります。
その他にも、小社や弊社、駄文などの言葉は、丁重に自分や自分の身内を下げていますが、相手を上げるものではありません。これがふたつめの謙譲語である「丁重語」なのです。
ひとつめの謙譲語の言葉と使い方
ひとつめの謙譲語(謙譲語Ⅰ)は、「伺う(←訪ねる)」のような特定形の他、「お(ご)…する」を付けるだけの一般形があります。例えば「お届けにあがりました!」の「お届けする」は「お(届け)する」なので、この一般形ですよね。
【 特定形の謙譲語の例 】
★ 「伺う(←訪ねる・尋ねる・聞く)」
例文:「明日の午前10時にそちらに伺います」「少々お伺いしたいのですが」
★ 「申し上げる(←言う)」
例文:「私の意見は、先日申し上げた通りです」
★ 「存じ上げる(知る)」
例文:「申し訳ありませんが、この方のことは存じ上げません」
★ 「頂く(←貰う)」
例文:「昨日お客様から、お土産を頂きました」
★ 「お目にかかる(←会う)」
例文:「先週の金曜日、はじめて山田さんにお目にかかりました」
★ 「拝見する(←見る)」
例文:「資料は既に拝見しました」
★ 「ご覧に入れる・お目にかける(←見せる)」
例文:「今から先日撮影した動画をご覧に入れます」「こちらはお目にかけていませんでしたか?」
【 一般形の謙譲語の例 】
★ 「お~する」→
・ 「お届けする」「お持ちする」「お預かりする」「お支払いする」
★ 「ご~する」→
・ 「ご案内する」「ご報告する」「ご相談する」
ひとつめの謙譲語(謙譲語Ⅰ)には誤用が多い!
このひとつめの謙譲語ですが、基本的に理解ができていないと、とんでもない間違えをすることに!自分を下にして相手を上げる敬語であるにも関わらず、相手を下に表現してしまう間違えが多いのです!
例えば…)
★ 「私のもとに伺ってくださいました」
・ 相手が自分のもとへ来てくれているのですから、この場合は「私のもとにいらっしゃいました」と、尊敬語になるはず。
★ 「こちらのお菓子をどうぞ頂いてください」と言うのもNG!
・ この場合も相手に謙譲語を使ってしまっています!尊敬語を使って「こちらのお菓子をどうぞお召し上がりください」と言い換えます。
ふたつめの謙譲語(謙譲語Ⅱ)の使い方
ふたつめの謙譲語である丁重語は、「行く」や「言う」などのいわゆる動詞の場合には、「…いたす(いたします)」に置き換えるのが基本。けれども、ひとつめの謙譲語と同じように、例えば「参る」などの特定形があります。
【 特定形の例 】
★ 「参る(←行く・来る)」
例文:「明日もう一度参りますが、宜しいでしょうか?」「出張で東京に参りました」
★ 「申す(←言う)」
例文:「総務部の佐藤と申します」
★ 「いたす(←する)」
例文:「先日は失礼いたしました」
★ 「おる(←いる)」
例文:「鈴木はこちらにはおりません」
★ 「存じる(←知る・思う)」
例文:「もう一度お目にかかりたいと存じます」
【 一般形の例 】
★ 「利用いたします」「計算いたします」「コピーいたします」
「名詞」が変わる丁重語
ふたつめの謙譲語(謙譲語Ⅱ~丁重語)は、名詞でも用いられる表現。と言うのも、ふこの分類の謙譲語は、書き言葉としての使用が多くなるからです。
【 名詞を変化させて表現する、丁重語 】
・「粗茶(←茶)」
・「粗品(←品)」
・「小社・弊社(←当社)」
・「愚息(←息子)」
・「拙著(←著作)」
ふたつめの謙譲語、丁重語の勘違い!
このふたつめの謙譲語、丁寧語で最も多い間違えと言えば、「おる」の使い方!例えば、「本日、山田課長はおられますか?」は間違えた敬語なのです。
【 「おられますか?」の間違え 】
★ 「おられますか?」はただ丁寧に言葉を装っただけのもの!
・ この場合は「本日、山田課長はいらっしゃいますか?」と、もともとある丁寧語を使います。
例えば「昨日、お客様が参られました」や「今、何と申されましたか?」も、「おられますか?」と同じ間違え。それぞれ「昨日、お客様がお見えになりました」「今、何とおっしゃいましたか?」と、丁寧語に改めて使うのが正解です!
いかがでしたでしょうか、一見聞くとややこしくなる、謙譲語のふたつの種類の違いと、それぞれに間違えやすい「勘違い事例」をいくつかお伝えしました。敬語はとても複雑!年齢を重ても勘違いはとても多く、何も若者だけの問題ではないのです。
敬語はただ相手を敬うというよりも、コミュニケーションを円満にするためのひとつの方法。確かに、違和感を覚えない美しい敬語を使う方には「この人、デキるな」という思いを持つ方も多いものです。
この二種類の謙譲語の違いは、ビジネスシーンでもよく登場しますので、理解しておくと役立つこと間違いなし!まずは実践を心がけて、どんどん使うと流暢に話せるようになります。
もし間違えても確認して改め、言葉の感覚を研ぎ澄まし、上司や取引先に一目置かれちゃいましょう!
まとめ
二種類の謙譲語の使い分け方
・自分を下げて相手を立てる謙譲語は、身内にも使う
・自分の行為そのものを丁重に表現するのが「丁重語」
・「お(ご)…する」を使うことで謙譲語になる